jfkmu ongaku blog

ICUの軽音楽サークルJazz Funk Keystation / Melody Unionの部員/卒業生による音楽ブログ。主に部内向け。

影響を受けた音楽としての『MOTHER2』

こんにちは。ID16でOBのゆうきです。
ブログ連載企画「私の大好きなゲームミュージック」の第2回目の記事になります。

お気に入りのゲームミュージックはたくさんあるのですが、その中でもかなり上位に来るのが『MOTHER2 ~ギーグの逆襲~』です。
JFK/MUでも幅広い世代に渡ってファンが多いゲームですが、やっぱりその理由のひとつは音楽の魅力なのではないかと思います。
熱烈なファンが多いMOTHER2を取り上げるのはとっても恐れ多いのですが、今回は趣向を変えて、音楽自体の魅力を僕の視点で語るのではなく、MOTHER2の音楽に興味を持ってもらえそうな、開発に関するエピソードを紹介する」ことで、MOTHER2の音楽の魅力を紹介していきたいと思います。

「耳の素養」としてのゲーム音楽

MOTHER2 ギーグの逆襲』は、1994年に任天堂から発売されたスーパーファミコンロールプレイングゲーム(RPG)です。
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コピーライターの糸井重里氏が企画したことで話題になりました。
主人公ネスは『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場するので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います(僕もスマブラで知りました)。

MOTHER2』は、糸井重里氏が企画した『MOTHER』シリーズの2作目にあたるソフトですが、MOTHERシリーズの開発においては、特に音楽に対する比重が高かったそうです。
MOTHER2の音楽を制作したのは日本のニューウェイヴバンド(?)、ムーンライダーズ鈴木慶一と、任天堂(当時)の田中宏和という2人なのですが、
その2人と糸井氏の対談記事(『MOTHER』の音楽は鬼だった。 鈴木慶一×田中宏和×糸井重里、いまさら語る。)の中で、糸井氏は以下のように語っています。

あのね、あの当時、
一部の名作はともかく、
ゲームにとって音楽っていうのは
かなりオマケ的だったじゃないですか。
で、『MOTHER』をつくるとき、
オマケの音楽はダメだって決めたんです。

で、具体的な例を挙げて言うと、
まず、当時のRPGにありがちだった
クラシックみたいな音楽をつける必要はない、と。
「ありがち」じゃできないものが欲しかった。
(中略)
ぼくはぼくが聴いてきたぼくの好きな音楽を、
やっぱり使いたいなと思ってたし、
音楽をキーにしてゲームを作るっていうのも、
企画のなかに入ってたんです。
だから、とにかく「音楽は大事だなあ」と。
わかりやすくいってしまうと、
『MOTHER』にとっての音楽って、
映画のサントラだと思ったんだよね。

それは、ものすごく大事なんです。
(中略)
音楽にこだわったのには
もうひとつ理由があって、
「耳からの刺激」というものが
非常に大事なんだっていうことを
ずっと思っていたんですよ。

それはもう、感覚というよりも理屈で知ってたの。
(中略)
で、そのくらい大事なものをどうするか。
候補としてまず挙がったのが慶一くんだったわけ。
なぜかというと、この仕事には、
「ポップ音楽の教養」が必要なんですよ。

映画音楽だからさ、一種の。
あらゆることを使えなきゃいけないってことと、
あと、ぼくとコミュニケーションが
取れる必要あるんですよね。
「ここはこうでさ……」って言ったときに
「そうそう」って言えないとダメなんで。
で、慶一くんのところに話を持っていきました。
糸井重里


第1回「音楽というものの大切さ」 より

そして、メインコンポーザーを務めた鈴木氏は以下のように語っています。

当時、まわりにもゲームの音楽を作ってる
ミュージシャンがいたんで、
つくるまえにいろいろと訊いたのね。
「どうやって作ってるの?」って。
そしたら、「デモ・テープ渡して終わり」
っていうふうなのが多かった。
やっぱりね、そういうつくりかたは
やっちゃダメだと思ったんだ。

(中略)
ゲームの音楽だから、
当然、私の名前を知らない人が、
聴くことになるでしょ? 子どもも含めて。
それってコマーシャル音楽とか、
映画音楽と近いんだけども、
不特定多数に知らないうちに
入ってく音楽っていうのを、
ちゃんとやんなきゃいけないな、
っていうふうにあのころ思ってたんだよね。

自分の名前でつくる音楽って、
きっと誰か、聴きにきてくれるでしょ。
でも、コマーシャルなんて、
無料で聞こえてくるわけだ。
そのへん、なんか使命感に燃えてたんだな。
鈴木慶一


第6回 「ロンドンレコーディング」 より

僕がMOTHER2を遊んだのは小学3,4年生の頃でしたが、なんかヘンな音楽だな、普通の音楽じゃないな、と子どもながらに思っていました。
優等生的なグッドソングとは違くて、ときどきなんか嫌な感じがするし、あんまり感じたくない感情を刺激してくる印象がありました(これは純粋に音楽単体からではなく、ストーリーも相まって、という部分もあります)。
こう聞くとなんかすごい暗い音楽みたいですが、そうではなく、明るいも暗いも内包していて、でもどこかひねくれた飄々とした音楽、という感じでしょうか。

今思えばですが、幼少期にMOTHER2の音楽に触れたことは、その後の音楽に対する基盤を作ったような気がしています。
それは、「耳の素養をつくる」ということを意図して創られた音楽だからこそだったのかもしれません。

多彩な音楽的バックグラウンド

中学生になってから知ったのですが、MOTHER/MOTHER2には、明確な音楽的バックグラウンドがあります。
先ほども挙げた対談記事の最終回では、鈴木慶一田中宏和両氏が制作する上で意識した/影響を受けた音楽を、集中的に語っています。
この記事は当時音楽を能動的に聴き始めていた自分にとっては衝撃的で、ここに挙げられているアルバムを聴いてみたことが、その後の音楽嗜好に影響を与えた部分もあります。今読むとJFK/MUに縁のある音楽も多いです。
記事で触れられているアーティストの中から一部紹介します。

John Lennon - Mind Games

www.youtube.com

わかりやすいところでいうと、
エンディングの
『スマイル・アンド・ティアーズ』は
なんとなく『マインド・ゲームス』入ってるし、
ウインターズでタッシーに乗ったときの音楽は
ビートルズの中期。
田中宏和


第10回「おとなのつくったゲーム」 より

両氏ともに一番影響が強いのがThe BeatlesおよびJohn Lennon
聴き比べると結構似てる。Bメロとか。

Yabby You - Conquering Dub

youtu.be

レゲエの重要アーティストらしいYabby You。
レゲエは田中宏和氏のルーツのひとつでもあり(当時レゲエバンドで活動していた)、MOTHER2もその影響下にあります。
上の曲は自分でアルバムを聴いていて気づいたんですが、オマージュというやつでしょうか、病院の曲にソックリです。

Eagles - The Last Resort

youtu.be

──田中さんが参加する際、
糸井さんから説明というか、
「こうしたいんだ」というようなものは
伝えられたのでしょうか?


田中
ああ、なんとなく最初に
糸井さんと話したの覚えてます。
で、説明というより雑談の中で出てきた
バンドがいくつかあって。
その中の一つが
イーグルスの『ホテル・カリフォルニア』!」


──端的ですねえ(笑)。伝わりました?


田中
伝わりました‥‥というか
勝手にイメージつくっちゃったんですが(笑)。
アルバム『ホテル・カリフォルニア』の最後に
『ラスト・リゾート』って曲があるんだけど
ぼく、それが大好きだったんですね。
なんだろ‥‥ひとつの曲が
どうのこうのって、言うよりも
アルバム聞き終えたあとの余韻‥‥
その余韻の質感みたいなもの

なんとなく自分がマザーの音楽にかかわるうえで
根底にあるかも‥‥。


第3回「『ホテル・カリフォルニア』とヘロヘロ」 より

たしかに、MOTHER2のポップでせつなくてじんわりくる感じは、ここらへんに感じられるかも。

My Bloody Valentine - Loomer

youtu.be

通称「マイブラ」!ノイズ混じりの不安定に鳴り続ける
騒音のようなギター、消えそうな歌、打ち込みのリズム。
もう好き好き好き。未だにこのフォロアー的音を出す
バンドを探し聞き続けてます。
『MOTHER2』の音楽の持ってる「揺れ」
このバンドからの影響大。
あと「糸井さんの深夜のキーボード」。
ギーグにも。
田中宏和


番外編『MOTHER』音楽チームからみなさまへ より

マイブラはこの記事を読んで聴き始めた気がする。その後の自分の、シューゲイザーオルタナグランジ・インディーロック系の音楽を聴く下地になったと思う(どれも未だにそんなに聴いてないですけど)。
この曲のイントロが個人的にMOTHER2っぽいと思う。

他にも、The Beach BoysとかXTCとかPrinceとかWeather ReportとかReturn To ForeverとかFrank ZappaとかNirvanaとか、JFK/MUに縁のあるアーティストが語られています。気になる方は読んでみてください。

ほぼ日刊イトイ新聞 - MOTHERの音楽は鬼だった。

サンプリング

前作『MOTHER』はファミリーコンピュータからの発売でしたが、今作でスーパーファミコンでの開発となり、PCM音源を利用して音楽制作ができるようになりました。
PCM音源というのは「あらかじめメモリに記録しておいたPCM波形(サンプル)を再生することで音を生成する装置」だそうです(Wikipediaより)。要はサンプリングした音を鳴らせるようになったということだと思います。

MOTHER2ではこのサンプリング音源がふんだんに使われています。人の声や音(ゲップとか)もそうなんですが、特におもしろいのが既存の曲の一部をサンプリングして曲に取り入れているところですね。
前述の影響を受けたアーティストからも多数サンプリングしていて、サンプリング元の音源を考察した動画が以下です。これについては、MOTHER2を遊んだことがある人が特におもしろがってくれるかなと思います。
※ゲーム中の場面の画像が載ってるので、まだ遊んだことないけど遊んでみたいと思ってる人はネタバレ注意です!

MOTHER2/EarthBound - Samples used in the soundtrack - YouTube


田中宏和の「隙間」

MOTHER2の音楽の中でも特徴的な曲のひとつが戦闘曲かなと思います。
戦闘曲は田中宏和氏が主に作っていて、ダークで奇妙でテクノっぽくてカッコイイんですが、最近その特徴について言及した動画を見つけました。
動画によると、田中宏和氏の曲には「小節間のランダムな位置に、適当な長さの隙間を作り、音を入れる」という特徴が見られるそうで、その例としてMOTHER2の戦闘曲が挙げられています。

確かに、言われてみると戦闘曲の不可解な感じはこの特徴に因るところが大きい気がする。


ということで、直接の曲紹介は敢えてしませんでしたが、この記事をきっかけにMOTHER2の音楽、ひいてはゲーム自体に興味を持ってもらえたら嬉しいです!
音楽に興味を持ってくれた方は、音楽単体で聴くよりもゲームと合わせて楽しんでもらえた方がいいかなと個人的に思いますので、是非遊んでみてください!

ちなみに現在はゲームボーイアドバンスの移植版(『MOTHER1+2』)、Newニンテンドー3DSWiiUのダウンロード版で遊べます。
www.nintendo.co.jp